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東京高等裁判所 平成5年(ラ)579号 決定 1993年9月28日

抗告人

乙山花子

抗告人代理人弁護士

太田雍也

相手方

甲野太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

第一抗告人の申立及び抗告の理由

本件抗告の趣旨は、原審判を取り消し、さらに相当の裁判を求めるというのである。

本件抗告の理由は、別紙「準備書面」に記載のとおりであり、要するに、原審判は抗告人の特有財産を当事者間の共有財産と認定し、これを相手方に分与したことは違法であるというのである。

第二当裁判所の判断

1  当裁判所も、抗告人は、相手方に対して、原審判の主文第1項記載の財産を分与し、同主文第2項記載のとおりの登記手続をすべきものと判断する。その理由は、原審判に記載の理由と同一であるからこれを引用する。

2 抗告人は、別紙準備書面の第1項から第3項までにおいて、原審判別紙財産目録1の(1)記載の土地は、抗告人が亡春子から相続した特有財産であって、財産分与の対象とはならないと主張する。しかし、上記引用にかかる原審判記載のとおり、相手方は、亡春子の養子として抗告人と共に二分の一の相続権があったにもかかわらず、円満な夫婦関係を維持するために遺産分割協議により抗告人に上記土地を取得させたのであり、実質的にみると、相手方は、その法定相続分たる上記土地の二分の一の持分権を抗告人に贈与することにより、抗告人の財産形成に寄与したものとみることができるから、相手方の法定相続分を限度として、夫婦財産の清算手続に組み入れるのが相当である。これを、形式的に割り切り、抗告人の特有財産として財産分与の対象とすることができないものとすると、例えば、夫が妻の両親と養子縁組していたところ、両親の相続に当たり、妻が円満な夫婦関係の維持を目的に夫にすべての遺産を相続させた事例を考えると、その後の夫の不貞行為のため離婚することとなった場合においても、妻は、右遺産について財産分与を求めることができなくなるが、このような事態は、公平の観点から不当である上に、社会通念にもそぐわないことは明らかである。なお、このように解することは、実質的に遺産分割のやり直しをすることとなって不当であるとの批判はあり得るが、夫婦が共同相続人となってその一方が遺産のすべてを相続したような場合に限られる上に、その他の財産や遺産分割後の事情も考慮するのであって遺産分割のやり直しそのものではないことは明らかであり、このような場合における夫婦の公平な財産の清算のためには、夫婦の一方が相続した財産を財産分与の対象とすることは許されるべきである。

抗告人は、生まれてから間もなく乙山家の養子となり、同家を承継する立場にあるのに比し、相手方が亡春子と養子縁組したのは春子が死亡する二年半前であり、抗告人が財産を相続したのは当然であると主張するが、これらの事情は、相手方は春子が死亡するまで八年間以上同人と同居していた事実と合わせて、具体的な財産分与の額、方法を決定するための事情として考慮すれば足りる事柄であり、抗告人主張の事実があるからといって、抗告人が相続した遺産が財産分与の対象でなくなるものではない。なお、抗告人は、相手方と亡春子との養子縁組は、無効であるとも主張するが、本件記録を精査するも、これを認めることができない。仮に、縁組届の証人に関して瑕疵があったとしても、そのことを理由に養子縁組が無効となるものではない(民法八〇二条二号参照)。

3  次に、抗告人は、別紙準備書面の第4項及び第5項において、原審判別紙財産目録3の(1)及び(2)記載の建物は抗告人の特有財産であるのに、これを実質的に共有財産と認定するのは不当であると主張する。しかし、上記引用にかかる原審判記載のとおり、これらの建物が共有財産であって、財産分与の対象となるとしても、その財産形成維持にあたっては抗告人の寄与が大きいことを認め、その点も考慮してこれらの建物はその名義どおり抗告人所有のままとするのである。仮に、これらの建物が抗告人の特有財産であったとしても、上記2の説示及び上記引用にかかる原審判記載の説示からも明らかなとおり、相手方は、優に上記の財産分与を受けることができるものというべきである。

4  なお、抗告人は、別紙準備書面の6項及び7項において、相手方は離婚について有責であること及び抗告人が相手方との間の三人の子の養育費を負担したことも考慮すべきであると主張する。しかし、本件記録によっても、相手方が離婚について一方的に有責であると認めることができないし、上記引用にかかる原審判記載のとおり抗告人が子の養育費を負担していることも考慮した上で、上記の結論を導いているので、いずれも理由がない。

5  よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官稲田輝明 裁判官南敏文)

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